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東京地方裁判所 平成9年(ワ)11919号 判決

原告 A

右訴訟代理人弁護士 清水利夫

右訴訟復代理人弁護士 小鮒成忠

被告 住友海上火災保険株式会社

右代表者代表取締役 小野田隆

右訴訟代理人弁護士 上林博

同 大前由子

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は原告に対して金二三七〇万六七〇〇円及びこれに対する平成九年三月一六日から支払済みまで年六パーセントの割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  原告は、埼玉県大里郡寄居町大字用土字桧町二〇三五番地一所在の木骨エンサイディング吹付タイル平屋住宅(以下「本件建物」という。なお、登記簿上の所在等は別紙のとおり)及び本件建物内の家財道具類について、以下のとおりの火災保険契約(以下、「本件契約」という。)を締結した。

(一) 保険契約者 原告

(二) 保険者 被告

(三) 保険の種類 住宅総合保険

(四) 保険期間 平成九年一月六日から平成一〇年一月六日午後四時まで

(五) 保険の目的 本件建物及び家財

(六) 保険金額 本件建物につき二〇〇〇万円

家財につき一〇〇〇万円

(七) 保険料 五万七三〇〇円。

2  本件建物は、平成九年一月一四日に出火して全焼した(以下、当日に発生した本件建物の火災を「本件火災」という。)。

本件は原告が被告に対して本件契約に基づく保険金として以下の各損害金相当額を請求する事案である。

(1)  建物全損 金二〇〇〇万円

(2)  家財損害金 金一三〇万六七〇〇円

(3)  臨時費用保険金 金一〇〇万円

(4)  残存物取り片付け費用保険金 金一二〇万円

(5)  失火見舞費用保険金 金二〇万円

3  本件契約の保険約款には、以下の約款がある

(一) 被告は保険契約者またはこれらの者の法定代理人の故意もしくは重大な過失または法令違反によって生じた損害に対しては保険金を支払わない

(以下、「故意免責条項」という。)

(二) 被告は保険契約者または被保険者が提出書類(損害見積書及び被告が要求するその他の書類)に不実の表示をしたときは保険金を支払わない(以下、不実記載免責条項という。)がある。

二  争点

1  本件火災が原告が関与した放火によるものであるかどうか

2  原告が本件火災発生後に被告に提出した動産り災状況に関する書面の記載に不実の記載があるかどうか及びこれにより信義則上原告が被告に対する保険金請求権を失うかどうか

3  本件契約が過大な保険金請求を行うことを意図したものとして公序良俗に違反して無効となるかどうか

4  本件契約当時、原告が本件建物の所有権を取得していたかどうか

(1)  原告が本件建物を所有していない場合に、被告に錯誤があるとの理由により本件契約が無効となるかどうか

(2)  原告が本件建物を所有していない場合に、原告がその点について被告を欺罔する行為があったかどうか

三  争点に関する当事者の主張

1  争点1(本件火災が原告による放火によるものかどうか)について

(被告の主張)

(一)(本件火災の原因)

本件火災は、火の気のない空き家である本件建物から出火したもので、漏電事故、ガス漏れによる出火の可能性はなく、また、石油ファンヒーター内の油類の流出もなかった。

他方、出火場所付近には比較的多量の灯油が存在した可能性が高く、焼毀状況も短時間の内に屋根の一部を吹き抜ける状態にまで達している。

以上から、本件火災は放火による火災である。

(二)(本件火災に対する原告の関与)

(1)  本件火災が放火によるものであるとすると、侵入盗犯ないしいたずら目的はもちろん、怨恨等により、第三者が放火した可能性はない。

(2)  原告は本件火災以前の平成三年三月二日に負債総額金四三六九万円をもって自己破産申立をし、同年九月六日午前一〇時に破産宣告を受け(同時に破産手続は廃止された。)、平成三年九月九日に免責申立をし、平成四年一〇月七日に免責決定がされた経緯がある。

その他、原告は本件契約締結までに、多額の借入金を抱えており、また、保険契約締結時点でも、原告がもとから賃借して居住していた家屋(以下、「原告方家屋」という。)の未払賃料等の債務を新たに負担していた。

(3)  原告が本件契約を締結した経過、動機についての原告の陳述には不分明な点が多く、自発的にさしたる合理的理由もなく本件契約を締結したもので、また、その支払金の額も原告の当時の経済状態を前提とすると、均衡を失している。

(4)  原告が本件建物に転居する予定であったとする原告の陳述は不分明な点が多く、転居予定自体が虚偽であったと考えられるが、原告がこのような虚偽の陳述をするのは、本件火災について原告に放火の疑いがかかるのを回避するとともに、一定の家財を搬入して保険金額を上乗せさせようとする意図に出たものである。

(5)  原告は本件火災の後、損害を受けた家財の存否ないしその購入額について過大・虚偽の申告を被告に対して行った。

(6)  原告が本件建物について所有権を取得しておらず、元所有者から違法な手続により所有権移転登記を取得した。

(7)  原告が本件契約を締結してから本件火災発生まで九日間で極めて短期間である。

(8)  本件火災発生の前後の原告の行動ないし言動について、<1>本件火災の前日の行動についての陳述が一貫性を欠いており、<2>本件火災を最初に知った時点での行動も不自然であり、<3>消防ないし警察に本件建物について本件契約が締結されていることを申告せず、<4>早期に本件建物を解体・撤去し、<5>原告自身が本件火災の放火犯人と思料する者について、心当たりのある者として警察等に申告することをしなかった、などの不審な点がある。

(9)  被告に対する保険金請求の手続について、立会人として相当性を欠く者を同道し、また、原告本人にも不穏当な言動が見られ、また、被告側窓口を説明しても、なお、他の部署を訪れるなどの行動が見られる。

(10) 以上によると、本件火災は原告の放火により発生したものと推認され、故意免責条項により、被告は保険金支払の責任を負わない。

(原告の反論)

(一) 本件火災の原因について、放火の可能性が高いことは争わない。

(二) 本件火災の原因が放火であるとしても、本件では、原告がその放火を行ったとする根拠はない。

1  本件建物の前所有者の妻らは、本件建物について明渡訴訟を提起されて敗訴し、更に、原告から強制執行を受けて本件建物を明け渡すに至ったもので、原告が本件建物を売りに出した際にも、買受希望者に不穏当な言辞に及んだり、原告所有の車両に悪戯をしていたという事情がある。

以上のことから、右の前所有者の妻には本件建物に対する放火について強い動機がある。

また、本件建物は玄関ドアないし窓の施錠の状況等から見て第三者が侵入することが可能な状態にあった。

(2)  本件火災当時の原告の負債状況は、原告方家屋の家賃約二三一万円、本件建物及びその敷地の売買契約の合意解約にともなう和解金及び横井眞一に対する負債である。

その他の負債は、実質的には原告ないしその妻の負債ではないといえるものであるか、または、形式的に債務を負担しているに過ぎないものである。

右のような負債が存在すること自体について、原告はなんら非難されるべき点はないし、これらの負債に関して、原告が厳しい取立てといった事態に直面していたものでもない。

こうした状況のもとで、原告が敢えて放火をしたと考えることは、その動機面でも無理があり、また、原告の合理的な行動とは言えない。

(3)  原告は本件契約を締結するにあたって、被告担当者に対して、本件建物は売却予定であったが、売却ができなくなったので、原告が自ら引っ越す予定があることを告げたうえで、本件契約締結に至ったもので、その締結経緯にはなんら不自然な点はない。

(4)  原告は現に本件建物への引越の予定であったものである。原告は本件建物を売却予定であったが結果的に売れなかったこと、原告方家屋の賃料がたまっていたこと、との事情から本件建物への引越を決心したもので、その行動は合理的というべきである。

そして、原告は、引越の準備のために、井戸水の水質検査、東京電力への通電依頼、手伝いの手配、家電製品の搬入などの具体的な準備行為を行っている。

(5)  原告が被告に対して虚偽ないし過大な申告を行った事実はない。原告と被告間で家財の存否ないし損害額について見解が相違するのはやむを得ないとしても、被告自身が本件火災の後に原告から動産り災申告書の提出を受けたうえ家財の保険金額について金一〇〇万円であることを表示しており、訴訟において、家財について虚偽ないし過大な申告がなされたなどとする主張をすること自体著しく信義則に反する主張である。

(6)  本件建物については、原告が平成六年四月二九日に前所有者から代物弁済により取得し、その旨の登記がなされている。また、本件建物の原告への所有権の帰属を前提として、右前所有者の妻らに対する明渡訴訟を提起し、勝訴判決もなされている。

(7)  本件火災が本件契約締結後、短期間に発生していることは認めるが、そのことから直ちに原告の放火によるものと推認されるものではない。

(8)  <1>原告の本件火災の当時の行動についての陳述に若干の齟齬があることは事実としてもそのことが不自然というにはあたらないし、<2>原告は本件火災の翌日に本件契約の事実を消防署に申告しており、<3>原告が本件建物を解体・撤去したのは被告の了解を得てしたものであり、<4>原告は、警察に対しても、本件建物の前所有者の関係者による放火の疑いがあることを申告している。

(9)  原告が被告に対して保険金を請求した経緯について、被告から平成九年二月一四日に原告に対して保険金二三〇〇万円の保険金支払の内示を受けたうえ、引越予定であったことの確認が取れれば保険金が支払われる旨の説明を受けていたところ、その後、原告からの再三の問い合わせ等に対しても調査継続中である旨を告げるのみであった。原告が被告に対して強硬な請求を行ったとしても、その原因は右のような被告の不誠実な対応にあったのである。

(10) 以上のほか、本件契約の保険金額は建物自体に評価額に見合う金額であったこと、原告には親族を含めて同種の前歴等は一切ないこと等の事情からみれば、原告が本件火災に関与したとの事実を認めることはできない。

2  争点2(虚偽申告)について

(被告の主張)

(一) 原告が被告に対して平成九年一月二四日ころに提出した動産り災申告書中には、全自動洗濯機、パソコン、カラーテレビ、ビデオ、ホットカーペット、家具調コタツ、オーブンレンジ、炊飯ジャー、コタツ布団一組、布団三組、衣類、食器棚、下駄箱及び二段ベッド(なお、二段ベッドについては本訴において提出された書証に追加記入されたもの)との記載があるが、これらの内布団一組を除いていずれも現場には存在しなかったもので、その申告額は家財全体の申告額の約半額に相当する。

(二) また、本件火災の現場で確認された家財についても、その金額について合計一五万五〇一五円の過大申告がされている。

(三) 以上のとおり、原告は本件火災による損害について虚偽申告を行っており、本件契約は本件建物と家財について一体の契約であるから、虚偽申告免責条項により、被告は保険金支払の責任を負わない。

(原告の反論)

(一) 被告が現場に存在しなかったと主張する家財はいずれも現場で確認したものである。

(二) しかも、被告が原告に対して家財の損害について金一〇〇万円を提示したことは前記のとおりであるから、この経過を無視して、本訴において虚偽申告免責条項による免責を主張することは信義則に反する。

3  争点3(公序良俗違反)について

(被告の主張)

前記争点1に関する被告の主張(二)の経過及び争点2(一)(二)記載の事情を前提とすると、本件契約は、原告が当初から保険金を取得する目的で締結したものであり、公序良俗に違反し無効である。

(原告の反論)

争点1、2に関する原告の反論のとおりであり、原告には被告主張のような目的は存在しない。

4  争点4(錯誤無効及び詐欺取消)

(被告の主張)

(一) 争点1に関する被告の主張(二)(6) 記載のとおり、原告は本件建物について所有権を取得しておらず、前所有者から違法な手続により所有権移転登記を取得したのであり、被告には本件契約の締結にあたり、本件建物の所有権帰属について錯誤があり、また、右錯誤は原告による欺罔行為により生じたものである。

(二) したがって、本件契約は錯誤により無効であるか、または、被告による取消(本訴準備書面による)により無効に帰した。

(原告の反論)

原告が本件建物の所有権を取得した経緯については、前記争点1に関する被告の反論(二)(6) 記載のとおりであるから、被告の主張は前提を欠く。

第三裁判所の判断

一  (本件火災の発生原因)

1(本件建物の状況)

甲第七号証、乙第七号証、第八号証、第九号証によると、次の各事実を認めることができる。

(一)  本件建物は、平成四年四月にB(以下、「B」という。)が新築し、埼玉県大里郡寄居町大字用土二〇三九番地に所在する木造瓦葺平家建の居宅であり、延べ床面積は概ね一二五平方メートルであった。

本件建物は南側に玄関があり、西側八畳の和室が南北に並んで二室ある。

(二)  本件建物の周囲は農村地域であり、その南側には農道が通っており、農道の南側には住宅二〇軒くらいが建っているが、本件建物の西側は植木畑、東側及び北側は空き地となっている。

(三)  本件建物は、本件火災当時、登記簿上の所有者は原告であったが(その所有権の帰属については後記する。)、原告は、本件建物と同一町内の大字保田原六三番地四に借家(原告方家屋)を有しており、本件火災が発生した当時、本件建物は住居等として使用されておらず、空き家であった。

(四)  本件火災発生当時の本件建物の施錠の状況については、玄関及び南側の窓は施錠されていたが、東側窓が施錠されていなかった。

2(本件火災の状況)

乙第七号証の三(寄居地区消防署副署長作成の本件火災の火災調査報告書)中には、本件火災について、概ね、以下の各記載がある。

(一)  本件火災の発生について

本件火災は平成九年一月一四日午前一時三〇分ころ発生し、本件建物を全焼したものである。

(二)  出火場所―見分による本件建物の焼毀状況による推定

(1)  本件火災の発見者は、火災状況について、本件建物西側の屋根から炎があがっているのを目撃している。

(2)  本件建物の東側及び北側の壁面には焼毀が見られない。

他方、八畳和室二部屋の柱は西側は東側の柱に比べ焼け細り、炭化亀裂が深く丸みを帯びている。西側でも南側より北側の柱が著しく焼け細り、炭化亀裂が深い。北西側柱の上下の炭化状態は上部より下部が全体に焼け細り、屋根瓦は全体に脱落し、小屋束、棟木全体が炭化し、西側の垂木、野地板は完全に焼失している。八畳和室は二部屋とも押入の床が抜け落ちて、その上に落下物の瓦などが見分され、押入部分の柱根太は南側に比べると北側の押入の方が著しく焼け細り、炭化現象が深い。八畳和室二部屋で最も焼毀の強い北側和室押入側の床板は部分的に焼け抜けている。押入側の床板は二部屋とも焼失しているが、南側和室より北側和室の方が焼失面積が大きく、炭化亀裂も北側和室が深い。

(3)  また、北側和室西側部分の押入、間柱及び根太が特に炭化が深く、柱の炭化は上部より下部が深い。

(4)  更に、消防署員が本件建物に出場した当時、玄関西側の火勢が最盛期であり、玄関及び東側に延焼拡大中であった。

以上から、本件火災の出火場所は北側和室中央西側部分からと考えられる。

(三)  出火原因

(1)  本件建物に設置されたLPGガスボンベのガスのコックはしまった状態であり、また、原告はタバコを吸わないこと、前記出火場所付近に灰皿等が発見されなかった。

更に、本件建物には電気配線はなされていたが、引き込み線が切断されていた。

以上のことから、ガス、タバコの火ないしは漏電による出火は考えられない。

(2)  他方、前記のとおり、本件建物の東側窓は施錠されていなかったこと、また、本件建物は本件火災当時空き家であって火の使用が考えられないこと、西側和室の押入の一部分に水を浸してみると油分が浮いているのが見分されたこと、等の事情から、断定には至らないものの、出火原因は放火の疑いと判定する。

3 右2に記載したような、消防関係者による見分の結果及びそれによる本件火災の出火場所及び出火原因に関する考察の経過そのものにはなんら不合理な点はなく、また、本件の関係証拠によっても右の推定を覆すに足りる証拠はないところからみると、本件火災は、何者かが本件建物に侵入したうえ、北側和室内に灯油を散布して着火する方法による放火と認めるのが相当である。

二(放火した者について)

1 本件火災当時の原告の経済状況について

(一)(原告の生活歴一般)

乙第三〇号証、第六二号証の二ないし二八、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると以下の各事実を認めることができる。

(1)  原告は、昭和二〇年八月一八日に出生し、その家族は妻C(昭和五五年九月二四日婚姻)、長女D(昭和五八年九月五日生)、次女E(昭和六〇年八月三〇日生)、長男F(昭和六三年九月二八日生)があった。

(2)  原告は昭和五三年一二月に、横浜市内を本店として株式会社Gを設立してその代表取締役となり、電化製品の卸・小売業を営んでいたが、同会社は昭和五八年八月一六日に不渡手形を出して倒産状態となった。

(3)  原告は、同会社の資金繰り等に関連して、会社の連帯保証人としてないしは自己名義の借入金債務としで合計金四六四一万四〇三六円の債務を負担しているとして、平成三年三月二日、浦和地方裁判所熊谷支部に対して自己破産の申立をし、その結果、平成三年九月六日午前一〇時に破産宣告(同時廃止)の決定がされた。

そして、更に、原告は平成三年九月一〇日に同裁判所同支部に対して免責の申立をし、平成四年五月二五日に免責決定がされ、同決定は平成四年一二月一五日に確定した。

(4)  他方、原告は株式会社Gが倒産した後である昭和六〇年ころに、それまで住んでいた横浜市内の住居(借地権付の自己所有家屋)から債権者の追及を免れるために、知人である平野貞雄(東久建設株式会社代表取締役)に頼んで、埼玉県寄居町内にある東久建設株式会社所有の原告方借家を賃料月額六万六〇〇〇円で賃借を受けて居住していた。

(5)  原告は右破産宣告申立て時点では、電気工事(電波障害対策工事)の下請人として稼働し、その年間収入は概ね四〇〇万円くらいであった(なお、原告は右免責申立の際の陳述において、年収を月額金二〇万円くらいである旨を申告している。)。

(6)  なお、原告は、平成六年一一月二四日に本件建物について平成六年四月二九日代物弁済を原因として所有権移転登記を得ていた(なお、本件建物の所有権取得経過自体については後記において認定する。)。

なお、右のうち、免責決定当時の原告の収入状況について、原告本人尋問の結果中には、売上高が二〇〇万円ないし三〇〇万円、高額に及ぶときは一二〇〇万円くらいに収入があったかのような陳述部分があるけれども、前記免責申立当時の原告自身の陳述に関する乙六二号の二三の記載に照らして採用しがたい(同号証は破産後の免責決定のために作成されたものであることから考えると、原告の実収入がその記載にあるように月額二〇万円(年収二四〇万円)にとどまるかどうかは疑義があるけれども、少なくとも、原告本人尋問中にあるような収入があったとは到底認めがたいところである。)

(二)(破産後の原告の負債状況について)

甲第七号証、第一三号証、乙第一一号証、第二〇号証、第二一号証、第二二号証、第二八号証、第三〇号証、第三二号証、第六二号証の一四、第七一号証の一、二及び原告本人尋問の結果によると以下の事実が認められる

(1)  原告は、前記のとおり、昭和六〇年ころから、原告方借家に居住していたが、賃貸人である東久建設株式会社に対する賃料の支払いは賃借当時から遅滞しており、平成五年ころには、累積した未払賃料が二〇〇万円くらいになっていたため、原告は前記平野貞雄と協議して、右未払賃料については金二〇〇万円の約束手形で支払を約束するとともに、原告が原告方借家を買い取る旨の合意をし、その代金は金三四〇万円を頭金とし、その後は賃料相当額である金六万六〇〇〇円を一五回に分割して支払うこととし、右頭金及び分割払金の支払のために約束手形を振り出して交付した。

右約束手形のうち、賃料未払分に充てられる金二〇〇万円の手形及び分割金の支払のためのうち最初の七回分は決済されたものの、頭金である金三四〇万円の手形と分割金八回分の手形は決済されないまま推移し、その後、原告から賃料の支払いもなかったために、結局、原告は平成八年一二月末日当時において、原告方借家について二三七万六〇〇〇円(平成六年一月から平成八年一二月まで三六か月分)の賃料が未払であって、同額の債務を東久建設株式会社に負担していたことになる。

(2)  原告は、本件建物の旧所有者Bが熊谷信用金庫に対して負担していた金一五〇〇万円の金銭消費貸借による債務について、平成八年六月一九日、右の残元金一三三五万七五三六円とこれに対する平成五年七月二八日から完済までの遅延損害金の各債務について連帯保証したが、この債務はその後弁済されておらず、原告は右信用金庫に対してこの債務を負担していた。

(3)  原告が自己破産する以前である昭和五八年二月一八日、原告は、横浜市内に所有していた建物について、根抵当権者を株式会社代照、債務者を横井眞一とする極度額金五〇〇万円の根抵当権設定登記をしていたが、その後、原告は、平成八年八月一六日に本件建物及びその敷地について債権者を横井眞一、債務者を有限会社A(原告が平成五年ころに設立した会社)とする債権額金二五〇〇万円の抵当権設定登記をした。

右の事実から見ると、原告は本件建物及びその敷地に設定された抵当権の債権額金二五〇〇万円であるかどうかは不明であるにしても、相当額(原告本人尋問の結果によっても金三〇〇万円程度)の借入金債務を負担していた。

(4)  原告は、平成六年ころ、本件建物及びその敷地を売却することを企図しており、平成六年九月二七日(原告が本件建物の所有権移転登記を取得する以前)、株式会社おちあい不動産との間で、これらについて売買代金を金一八〇〇万円とする売買契約を締結した。その際に、原告は同会社から手付金二〇〇万円及び原告が負担する登録免許税に相当する額七〇万円を受領し、更に、その後、平成六年一一月一七日に中間金として金七二万円を受領した。

その後、株式会社おちあい不動産は、本件建物及びその敷地を第三者に転売する仮契約を締結したものの、転売予定の第三者から右仮契約を解除されたために、平成六年一二月一〇日、原告との間で前記売買契約を合意解除するとともに、原告が受領した金員の内手付金と中間金の合計金二七二万円と株式会社おちあい不動産に対する損害賠償として金二二五万円の合計金四九七万円を分割払いにより支払うとの和解契約をした。

しかし、原告は右の内金五〇万円は支払ったものの、残金の支払いをしなかった結果、株式会社おちあい不動産に対して金四四五万円の未払金債務が残存していた。

(5)  また、原告の妻Cは、平成四年ころ、原告の事業のための資金と称して、本件建物のもと所有者Bの妻Hの母親である立川照子から金二〇〇万円を借り入れたが、その内金五〇万円は返済されたものの、残額は未返済となっている。

以上の事実が認められ、原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は採用できない。

以上の各認定事実によると、原告は、本件火災発生当時、未払賃料債務として金二三七万六〇〇〇円、Bの連帯保証債務の元金債務として金一三三五万七五三六円とこれにともなう遅延損害金債務、横井眞一からの借入金債務として少なくとも金三〇〇万円の債務、株式会社おちあい不動産に対する和解金債務の残金四四五万円の債務が存在し、これに加えて、原告の妻が立川照子から借り入れた金員の内一五〇万円程度の債務が未払で残存していたことがうかがわれる。

(三)  以上の各事実に照らして考えるに、一方で、原告は破産手続及びその後の免責手続以前に自己が代表取締役であった株式会社Xの事業資金等として金四六〇〇万円余りの債務を負担していたこと、これらの債務は右の各手続により法律上免責手続きが取られたものの、免責以後もその関連で新たな債務を負担したこともあったこと、また、現実に免責以後の時点でも、原告方借家の未払賃料や株式会社おちあい不動産に対する和解金債務等の新たな債務を負担したこともあった等の事情が認められる。

他方、原告の免責以後の収入状況について、一か月あたり金二〇万円であるとする免責時点での陳述以外に直接これをうかがう証拠資料はなく、右陳述をそのまま真実を述べたというにはいささか疑問があるものの、原告本人尋問の結果にあるような高額の収入があったとは到底認めがたい。

そうすると、原告は、一方で賃料債務を含めて清算するべき債務を相当程度に有していたが、他方で、その収入は家族合計五名が生活するにはかなり支障を来す程度のものであったこととなり、その経済生活はかなり困窮していたことがうかがわれ、また、前記債務の返済については、その全部であるとは言えないまでも、未払賃料債務や横井眞一からの借入金債務に関しては、その返済のための資金の捻出に苦慮していた状況がうかがわれるところである。

2(本件契約締結に至った経過について)

(一)  本件建物及びその敷地の所有権の帰属について

(1)  原告は本件建物及びその敷地の所有権移転の原因、経緯について、Bから代物弁済により取得したものと主張する。

そして、甲第七号証、第一二号証、第一四号証、乙第二三号証、第二四号証によると、

<1> 本件建物及びその敷地はもとBが所有していたところ、平成六年一一月二四日に、代物弁済を原因として原告に所有権移転登記がされた。

<2> 原告は、右の登記の後、平成七年二月二七日に、本件建物の占有者であったH(Bの元妻、平成六年一月一〇日に協議離婚)及びI(Bの子)を被告として建物明渡請求の本案訴訟を提起し、同訴訟については平成七年八月二四日に原告勝訴の判決がされた。

<3> そして、原告は、その後も本件建物に居住していたHを債務者とする建物明渡の強制執行を申立て、平成八年三月一四日に右執行がされて本件建物の占有を取得した

との各事実が認められる。

したがって、前記原告の本件建物の所有権取得原因に関する主張には、一応の根拠があるとも見られる。

(2)  しかし、他方、原告の本件建物及びその敷地の所有権移転登記の原因事実となった代物弁済の内容についてみるに、原告はBに対して現金及び手形により合計金一七一〇万円を貸し付けたものであると主張し、原告本人尋問の結果中には右主張に沿った部分があるほか、乙第一三号証中には、右以外にBが原告の経営する会社が振り出した手形を盗取したとの記載部分がある。

しかし、右の陳述の内容となった原告のBに対する金銭の貸付の金額ないし時期に関しては、原告本人尋問の結果中の陳述そのものが極めてあいまいであるうえ、右のとおり相当高額の貸付であるにもかかわらず、その事実を裏付ける証拠資料も存在しない。

また、原告の主張を前提とすると、原告は本件建物について所有権移転登記を取得した平成六年一一月二四日以前に、Bに対して右(二)で原告が主張するような金銭の貸し付けを行ったことになるが、前記1において認定した事実によると、原告は自ら代表者となった会社が倒産状態となり、その関連の負債総額四六〇〇万円余により、自己破産を申立て、平成三年九月六日に破産宣告(同時廃止)の決定がされ、更に、その後、免責の申立をし、平成四年五月二五日に免責決定がされたというのであり、また、破産申立時点での原告の収入は概ね年四〇〇万円程度であったことが推定され、また、右免責決定以後の時点に限定しても、原告は各種の債務を負担していたことがうかがわれるのである。こうした原告の経済状態を前提とするならば、原告がBに対して真実に前記のような相当高額の貸金をすることができたと考えることは極めて困難であるというべきである。

(3)  次に、本件建物及びその敷地について所有権移転登記がなされるに至った背景となる事情について、甲第七号証、第一三号証、乙第二五号証、第三四号証及び弁論の全趣旨によると、以下のような事実が認められる。

<1> Bは本件建物を住居として妻子とともに居住していたが、平成四年一二月ころに、本件建物を本店所在地として武州工業株式会社を設立して鳶工事等を営んでいたが、平成五年ころ、原告の妻が同会社に経理事務を担当するとして出入りするようになり、原告も同年夏ころから、本件建物に「クーラーをつけてやる」などと称して出入りするようになった。

<2> Bは前記武州工業の経営に関してかなり放漫な経営をし、その関係で各種の借財をするようになっていたが、この間、原告ないし原告の妻はBないしはその妻に対して同会社の営業に関する介入などを行ったり、同会社の運転資金などと称してBの妻に知人から金員の借入をさせるなどしていた(また、前記認定のとおり、このころ、原告の妻がBの妻の母親から金員を借り入れるなどしていた。)。

<3> そして、平成五年九月ころには、原告はBから登録印鑑及び印鑑登録証を預かったまま保管するに至っていた。

<4> しかし、その後、前記武州工業の営業は破綻状態となり、BとAの関係も悪化していく一方で、Bは、平成五年一二月二七日ころに本件建物に妻子を残したまま失踪した。

<5> 右失踪の後、本件建物及びその敷地双方のB名義の所有権登記について、平成六年一〇月一二日受付をもってその住所地を原告方借家の所在地(埼玉県大里郡寄居町大字保田原六三番地四)に変更する表示変更の登記がなされたうえ、同年一一月二四日受付をもって前記(1) のとおり本件建物及びその敷地の所有権移転登記がなされた。

以上の事実が認められ、原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は前後相矛盾するなどしていて採用しがたい。

(4)  他方、本件建物及びその敷地につき原告への所有権移転登記の申請手続自体についてみるに、

<1> Bの住居変更の登記(所有権登記名義人表示変更登記)については、平成六年一〇月七日付によりBの委任状(乙第三四号証添付写真NO1)が作成されたうえ、平成六年一〇月一二日付で司法書士により右登記申請書(乙第三五号証)が作成されて、この登記申請手続きがなされたこと、

<2> また、原告への所有権移転登記について、平成六年一一月一八日付でこの登記申請書(乙第三六号証)が作成されて登記申請手続がなされているが、その際に、前田喜惟及び前田榮子なる者がBの保証人として保証書(乙第三七号証)を提出し、これについて、Bの署名と捺印がされた意思確認書(乙第三四号証添付写真NO5、8)が登記所に提出されていること、

がそれぞれ認められる。

しかし、乙第四五号証によると、右のうち、住居変更の登記の際に作成された委任状中のB名義の署名については、B本人ではなく原告本人が自署したものであると推定され、また、所有権移転登記の意思確認手続の際のB名義の署名についても、B本人の自筆ではなく第三者によってなされたものであることが推定される(右乙第四五号証は、被告によって本訴に提出された鑑定書であるが、その鑑定の手法と経過に鑑みると、十分に信用しうる内容を有しているものと思われる。)。

また、前記のとおり、本件建物及びその敷地について原告への所有権移転登記がされた際に、Bの保証人となった者については、その身上等を推定する証拠資料はなんら存在しない。

(5)  以上のとおり、本件建物及びその敷地の所有権移転の経過及びこれにともなう登記手続の経過については、その所有権移転原因となった実体関係である代物弁済の原因債権の存在を認めるに足りないうえ、登記手続も、原告とBとの関係が悪化した後にBが事業の失敗などにより所在不明となった後に同人の登記簿上の住所地を原告の住所地に変更する表示登記をしたうえでなされていること、更に、B本人が真実に登記手続に関する委任ないし意思確認を行ったのかどうかが明らかでないなど、種々の不可解な点が見られる。

以上の事情を総合すると、原告が本件建物の所有権を真実に取得したものとは認めることができず、原告は不当な方法によって本件建物及びその敷地の所有権の登記名義を取得した可能性が高いものというべきである。

右のとおり、原告が本件建物の所有権を取得した経過について疑義があるとしても、そのことが直ちに原告が本件建物に放火した事実と結びつくものとはいえないけれども、右の事実から見て、原告は本件建物の取得について正当な経済的対価を出損していないことが推測されるものというべきである。

(二)  本件契約の締結のきっかけについて

(1)  原告が平成六年ころには本件建物及びその敷地の転売を企図し、同年九月二七日、株式会社おちあい不動産との間でその売買契約を締結したが、その後、転売自体が不可能となっていたこと(前記1(二)(4) )、原告は平成六年にHらを被告として建物明渡請求訴訟を提起して勝訴判決を得たうえ、平成八年三月一四日に本件建物の明渡の強制執行がされて本件建物の占有を取得したこと(前記(一))は前記各認定のとおりである。

他方、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、原告は本件建物の占有を取得した後も依然として原告方借家を住居としていたが、その後、平成九年一月六日に至って本件建物について建物及びその内部の家財道具を目的とする本件契約の締結に至っていることが認められる。

(2)  ところで、原告が右のとおり本件建物について本件契約を締結した動機として、原告本人尋問の結果、乙第七号証の九及び乙第一三号証中には、原告が平成九年一月一五日に本件建物に転居して、住居として使用する意図であったことを述べる部分がある。

そこで、原告が本件建物を住居として使用する意図があったかどうかについて検討する。

<1> まず、原告が原告方借家から本件建物に転居する意図を持つに至った動機について、乙第一三号証及び原告本人尋問の結果中には、本件建物が売却できなくなったこと、それまで居住していた原告方家屋について家賃の滞納があり家主である東久建設から明渡を迫られていたことを述べる部分がある。

ところで、原告がもと本件建物の転売を企図していたがそれが不可能となったことは右のとおりであり、また、乙第一六号証によると、原告はその後平成八年一〇月一日に有限会社日建との間の本件建物及びその敷地の売買に関する専任媒介契約を締結したがその期間は平成八年一〇月一日から三か月間と定められていたことが認められ、また、前記1(二)(1) において認定したとおり、原告が原告方借家の家賃につき合計金二三七万六〇〇〇円の未払を生じていたことが認められ、その点では右原告の陳述は一応の根拠があると言える。

しかしながら、原告が本件建物に移転することを決意した時期に関して、原告本人尋問の結果中には、自らが引越を決意した時期を同年一二月初めころであるとしながら、それ以前の同年一一月に本件契約を仲介した者に対して引越を予定している旨を告げたとする部分があり、この陳述自体いささか相矛盾して不可解な点がある。

また、この点を置くとしても、右原告本人尋問の結果によると、原告は前記平成八年一〇月一日付の専任媒介契約の期間が未だ継続している期間中に、本件建物への移転を決意したことになるけれども、右契約による本件建物の売買が不可能であろうと考えた根拠については、自分の中でそのように考えたという他には何ら具体的な陳述をしていないし、また、専任媒介契約の相手方である日建から売買の見込みについて何らかの連絡があったといった事情も示されていない。

また、原告方借家の家賃の滞納について、かかる家賃の滞納により居住を移転するのであれば、当然家主である東久建設との間で未払家賃の清算等ないしは少なくとも移転時期についての協議等があってしかるべきものと考えられるけれども、原告と同社との間でこのような協議がなされたことをうかがわせる事情はない。

したがって、原告が平成八年一一月ないし一二月の時点で、本件建物の売却を諦めてこれへの移転を決意したということ自体、かなり唐突の感を免れないものというべきである。

<2> 次に、原告が本件建物への移転以前に移転の準備として搬入した物件の状況についてみる。

この点につき、原告が被告にり災申告した物件は、乙第一五号証及び甲第四号証によると、冷蔵庫、全自動洗濯機、ステレオ、パソコン、カラーテレビ三台、ビデオ二台、石油ファンヒーター、ホットカーペット、コタツ、照明器具六個、ガスコンロ、オーブンレンジ、炊飯ジャー、食器棚、布団三組、コタツ布団、衣類及び下駄箱となっている(なお、原告が本訴に書証として提出した甲第四号証には、右に加えて二段ベッドの記載がある。)。

これらの物件が真実に本件火災現場に存在したかどうかについては疑義を容れる余地がないわけではないけれども、仮に、原告が真実にこれらの物件を本件建物に搬入したものとした場合、原告がこれらの物件を本件建物に搬入した時期について、原告本人尋問の結果中には、原告はこれらの物件のうち石油ファンヒーター、コタツ、衣類及びパソコンについては、本件火災前日の平成九年一月一三日に搬入したとする部分があるほか明確な陳述はなく、原告が引越を決意した時期以降に本件建物に搬入したものということになるが、右の物件はいずれも日常使用する家財であって、転居する場合には、同時に搬入されるのが通常の物件であると思われ、あえて転居以前に搬入する合理的理由を見出しがたいものというべきである。

以上のとおり、原告が本件建物へ住居を移転する意図であったとする原告の陳述については、原告がそうした意図を有するに至った経過自体唐突の感を免れないのみならず、そのような意図を有していたことを推測させる原告の陳述内容には不可解な点が多く、結局、原告が本件発生の翌日である平成九年一月一五日に本件建物への住居移転を予定していたとの事実を認めるに足りないものというべきである。

(3)  また、前記1において認定した事実によると、原告は右の当時に現に居住していた原告方借家の賃料(月額六万六〇〇〇円)を滞納しており、その滞納額自体も二六一万円に達していたことが認められる一方で、本件契約による保険料は一か月五万八〇〇〇円になるのであるから、原告の経済状態から見て本件契約による保険料を支払う意思及び能力があったかどうかは極めて疑問としなければならない。

(4)  以上によると、原告が本件契約の締結時点において、本件建物に居住する意図を有していたものとは認めがたいこと、他方、原告の右時点の経済状況、特に、現に居住していた原告方借家の賃料についても多額の未払債務を生じていたことに鑑みると、原告が本件契約を締結することについて合理的な理由を見出すことは困難であるというべきである。

3 本件火災発生当時の原告の行動について

本件火災が発生した平成九年一月一四日午前一時三〇分ころ前後の原告の行動については、乙第七号証の九中には、<1>前日である同月一三日の午前中に、仕事で群馬県前橋市内に赴き午後六時ころまで仕事をして帰宅した、<2>同日午後八時ころ、本件建物に赴いてパソコン等の荷物を搬入した、<3>同日午後八時四〇分ころ原告方借家に帰宅して午後一〇時ころに就寝したとする部分があり、乙第一三号証中にも、右本件建物への荷物の搬入状況について、搬入した物件をファンヒーターであるとするほか、ほぼ同趣旨の記載がある。

右のような陳述については、原告本人の陳述があるほかにはこれを裏付ける証拠資料は存在しないうえ、原告本人尋問の結果中には、本件建物へのパソコンの搬入時点を同月一三日昼ころであるとしたうえ、その前後の行動について、仕事のために高崎市に赴いたが、いったん本件建物に戻ってパソコンを搬入したうえ、再度、同市内に戻って仕事を続けたとする部分があり、この陳述は明らかに乙第七号証の九、第一三号証中の陳述と相矛盾しているというほかはない。この点の事実関係は、本件火災発生時点以前の時点に関するものではあるけれども、本件火災発生の前日という重要な時点の行動について、高崎市内に滞在していたか、いったん本件建物に戻ったかというかなり単純な事実に関する陳述に右のような矛盾があることは、原告の本件火災発生当時の行動に関する陳述全体の信用性に疑義を生じさせるものと言わざるを得ない。

したがって、本件火災発生当時の原告の行動について、これを明確に推定させる証拠はないものというべきである。

4 本件火災後の原告の言動等について

乙第七号証の九、一〇によると、原告は、本件火災当日の、消防により行われた事情聴取において、本件建物の保険加入状況について、「火災保険には入っておりませんが、この家に妻が保険を掛けているかどうかはわかりません。」と答え、更に、その後の平成九年一月一七日に消防に対して「実は妻が私に内緒で今年の一月六日に住友海上火災保険会社と保険金額二〇〇〇万円の契約を締結してありました」と答えていることが認められる。

右の各応答のうち、火災当日のものは明らかに虚偽の内容であり、また、一月一七日のものは保険契約締結の事実自体は真実に合致しているものの、なお、その締結の背景たる事実について虚偽の内容を含んでいる。

原告が右のような供述をした理由について、原告本人尋問の結果中には、気が動転していたこと等を述べる部分があるが、火災を起こした当の家屋の保険加入状況で、しかも、原告自らが行った保険契約の締結といった単純かつ基本的な事実について、気が動転していたことにより記憶を喪失するとは考えられないところであり、原告の右のような虚偽の申告の理由は全く不可解というほかはない。

三  第三者による放火の可能性について

前記2において認定した事実によると、本件建物の元所有者Bないしその前妻は、正当な権原なく本件建物の所有権の登記を奪取されたうえ、右の前妻は原告から本件建物の明渡の強制執行を受けたものであるから、原告に対する怨恨を有していることは一応認められるところである。

しかし、右の怨恨は一般的な可能性として、放火の動機となりうるというにすぎず、その他、同人らが本件建物に放火したことをうかがわせるなんらの具体的な事情も存在しない(原告本人尋問の結果中には、原告がかつてBの妻から自動車のガラスを割られたことがあるなどとする部分があるが、これらを裏付ける何らの証拠資料もないばかりか、原告がBの前妻からこのような被害を受けたとするならば、それは本件火災の原因を推測する上で相当重要な事実であるにもかかわらず、原告が右のような被害事実を述べたのは本訴における原告本人尋問に至ってからのことであり、このこと自体、右のような被害事実の存在について重大な疑義を生じさせるものというべきである。)。

なお、乙第二五号証によると、Bの前妻は本件火災への関与を否認する陳述をしている。

四  以上の検討によると、本件建物については、原告が本件契約を締結したわずか九日目という短期間に本件火災が発生していること、原告は当時経済的にかなり逼迫した状況にある一方で、各種の債務を負担し、その債務のうちには本件建物の売却に関連して第三者に対して負担した和解金債務も存在し、更に、現に居住していた家屋について多額の未払賃料債務を負担していたことから、これらの債務を清算する必要性があったこと、本件契約を締結するについて合理的な必要性を見出しがたいばかりでなく、当時の原告の経済状況からみると、本件契約の保険料の負担は過大であると推定されるにもかかわらず、本件保険契約を締結していること、更に、原告が本件建物の所有権の登記を取得するに至った経過からみると原告は本件建物について正当な取得原因を有していたものとは認められず、その意味で、本件建物についてなんらかの経済的出損をしていなかったであろうと認められること、他方で、第三者による放火の可能性について、これをうかがうべき可能性は絶無とはいえないが、その可能性は具体的なものではないこと(かえって、右第三者の現時点の状況からみると、あえて、本件火災時点で本件建物に放火するとみること自体、かなり困難であること)等の事情を総合すると、本件火災は原告の放火によるものと推定するのが合理的というべきである。

五  以上によると、故意免責条項を理由とする被告の抗弁には理由があるから、その余の争点について判断するまでもなく、原告の本訴請求には理由がない。

(裁判官 神坂尚)

別紙

所在 埼玉県大里郡寄居町大字用土字桧町○○〇○番地××

家屋番号 二〇三五番一

種類 居宅

構造 木造瓦葺平屋建

床面積 一二四・八三平方メートル

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